改善活動の難しさ

事務改善活動について現在では多くの行政組織で実践されており、一般的に見受けられるようになりました。もちろん、こういう運動をしていくこと自体は運動論としてはいいのですが、成果を着実に出していくことにはいくつかの問題があり、結構むずかしいように思います。

これまでの著書で明らかにしましたが、例えば、節約した事務量を何に充てるのか、事前に明確に想定しておかないとせっかく節約した事務量が雲散霧消してしまい、どこに使われたのか分からない状況になりかねません。実際にやってみて、切実な問題として認識しました。
ほかによく聞く悩みとしては、「おざなり化」しやすい、形骸化しやすいことも挙げられると思います。そこで、本項目ではこの点について述べたいと思います。

事務改善活動の「おざなり化」をいかに防ぐか。そこには、3つのキモがあるように思います。すなわち、トップのリーダーシップ、ノウハウの共有化、人事考課との連動です。

まず、トップのリーダーシップです。もちろん、事務改善活動は現場の職員や従業員が実際には担います。しかし、事務改善活動がいかにキモでありいかに重要であるか、組織全体にとって1丁目1番地なんだということを、トップがリーダーシップを発揮してメッセージを出していくことが非常に重要だと思います。職員や従業員の意識の中でいかに上位にもってきてもらうか。ここは代替のできないトップの役割があるといっても過言ではないでしょう。

次に、ノウハウの共有化です。事務改善活動はやみくもに提案を求めればいいわけではありません。そもそも手戻りを防ぐためには、事務フローたる標準が意識されている必要がありますし、改善活動そのものが標準化された業務フローの改定作業であることを共通認識としておく必要があります。そして、皆がある程度同じ目線で改善点を探していく必要がありますので、そのための意識付けも統一しておくことが望ましいでしょう。具体的には、気付きを得るため、掘り起こすための細かいノウハウや着眼点等の共有化などです。これは、わが国企業、とりわけ製造業の現場では様々な工夫がこらされているように思います(TQCなどはそれらのノウハウの集合体といってもいいかもしれません)。

 そして、人事考課との連動です。職場の雰囲気によっては、実効的な事務改善提案ですら余計な事を言いだしてといわれやすいのではないでしょうか。どんな組織にもこれまでのやり方を変えることに反対するヒトはいるものです。しかも、わが国に根強い同調圧力がその方向を強めてしまう場合も多いでしょう。これはよく見聞きするところでもあります。だからこそ、改善提案をしていくことが重要で、しかも組織の中ではいかに正しいことなのか、重要なことなのかということを、(トップのリーダーシップに加え)人事考課を通じて示していくことが求められるのだと思います。

以下は単なる想像ではありますが、例えば、事務改善活動について、トップが「いろいろな話を聞かせてもらうことを楽しみにしている」といった軽いメッセージしか発していない場合もあると思います。しかし、これではトップがお客さんになってしまっています。組織にとってキモであり、だからこそ提案をという強いメッセージ性がそこにはないのです。
ほかにも、トップが「事務改善活動はすでに一部で行われており…」というメッセージを発してしまっている場合もあると思います。これだと、本来はこれまで以上に取り組んでいかなければいけないのに、「そうか、既にやっているのか。それなら、これまでのやり方を変えなくていいな」という感情を引き起こしてしまいます。
更に、事務改善活動に関して「ITCの活用が大事」というメッセージを発してしまっている場合もあります。ITCは業務フローと関連付けられ、実は事務改善活動と表裏一体のものなのですが、そこをいわないでITCの活用のみに言及すると、ITC には期待するが、事務改善活動にはそれほど期待していないという印象すら与えかねません。
そして、「この手の話は時間がかかるので…」といってしまっている場合もあります。確かにそれはそうかもしれませんが、このようなメッセージを発すると、職員や従業員に対してすぐには変わらなくていいよという印象を与えかねないと思います。
これらを読んだとき、せっかくトップがそろい踏みして事務改善活動に関するメッセージを出しているのに、従業員の側にたつと、正直、なんだかなあという残念な気分になりませんか?。もちろん、これらは全てが想像です。単なるものがたりとしてお読みいただければと思います。

 長々と述べてしまいました。

 事務改善活動の最大の弱点は「おざなり化」しやすいことです。だからこそ、実務においては、そのための対応策に最大限の留意を払うべきなのです。実務上の盲点の一つがここにあるといってもいいでしょう。