管理会計の外縁:戦略編

 今回は、戦略の分野について、なぜ非財務指標が重要になるのか、これらがどうして管理会計の範疇に入るとされているのかについて述べたいと思います。

 戦略の分野は経営の世界では経営戦略といったりしますが、これは伝統的に、経営戦略論で扱われてきました。この経営戦略論と管理会計論との区分は悩ましいところもあるのですが、一応、経営戦略が経営計画にブレークダウンされるところを境目として、経営戦略⇔戦略的計画のところでミシン目が入っていました。すなわち、戦略的計画以下が管理会計論の対象とされてきたのです。

 しかし、この区分は、1990年代にバランスト・スコアカードの議論の一環として戦略マップが登場したことにより、変わり始めました。戦略マップは、様々な戦略目標を矢印(→)で表現される因果関係で結ぶことにより、戦略を可視化することができるという特徴を有します。これにより、戦略をよりビジュアルに示すことができるようになったのです。
 また、戦略の可視化に役立つツールとしては、他にも、企業の統合報告論や行政の分野などで言及されることの多いロジックモデルを含めて考えることもできるでしょう。このロジックモデルも、戦略マップと同様、矢印(→)で表現されるという特徴があります。
 そして、これらの戦略マップ等の下で、従来の管理会計論で言及されていた方針管理や目標管理などの管理会計手法を補助的なツールとして組み合わせて活用される事例もでてきているのです。

 経営戦略のマネジメントは、実務上は非常に重要です。なぜなら、経営戦略自体をコントロールできないと、利益、収益(売上)、費用はコントロールできないからです。

 その上でですが、管理会計の教科書における経営戦略論の扱いは微妙です。経営戦略論を取り込んで解説しているテキストもあれば、管理会計手法としての戦略マップまでの解説にとどめ、それ以上の記述はしていないテキストもあります。ここに、管理会計論の範囲はどこまでなのか、素人目で見た場合の分かりにくさがあります。
 とはいえ、実務家の立場からすると、経営戦略⇔戦略的計画のところでミシン目を入れる必要性はそもそもないと考えられますので、戦略を含めて考えるのが自然だと思います。

 昨今、ビジネスモデル論が盛り上がっています。ビジネスモデル論では、例えば、短期間でコストをかけずにPDCAを回していくリーンスタートアップがもてはされているように、機敏な軌道修正が求められています。
 ビジネスモデル論を踏まえた経営戦略も同じ要請の下にあります。機敏に軌道を修正していくためには、経営戦略自体を可視化して、修正しやすくしておく必要があるのです。だからこそ、経営戦略の可視化が今まで以上に必要視されているのです。