将来キャッシュフローは予測できる?

管理会計論で扱うプロジェクト等での経済性計算でも、ファイナンス論で扱う企業等の価値評価(Valuation)でも悩ましいのが、将来キャッシュフローの予測です。神ならぬ身の我々からすると、「そんなこと、知るもんか!」といいたくなるところですが、そんなことをいってしまうと社会科学は成り立たなくなってしまうので、あえて説明を続けます。

 企業等の価値評価においては、当該企業等が所在する業界の状況やその将来展望などが非常に重要となりますが、ここでは管理会計論の観点から考えるので、これらについてはヨコに置きます。

 それでは、プロジェクト等の経済性計算にあたって、将来キャッシュフローの予測のための工夫にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは代表的な工夫を2つ挙げます。予測方法から考えていく工夫と、不確実性から考えていく工夫です。ここでは、前者の代表例としてシナリオ分析を、後者の例としては、ディシジョンツリー分析と一緒に用いられることの多いリアルオプションを挙げたいと思います。

 まず、シナリオ分析です。これは、前提条件の変化をあらかじめ想定し、その対応策を決めておくというものです。ロイヤルダッチシェル社が1973年の石油ショックに際して環境変化をあらかじめ想定しうまく対応できたことから有名になりました。
ロシアのウクライナへの侵略戦争に際し、英米系の資源メジャーが早々にロシアの権益を放棄したことが話題を呼びました。間髪を入れずの対応等をみるにつけ、このシナリオ分析をしっかりやっていたと思われます。これに対して、日本企業の対応は少し混乱した感がありました。外から想像するだけですが、これらのことをみるにつけ、シナリオ分析の精度等に大きな差があったのではないかと思われるところです。
シナリオ分析を行うにあたっては、すぐに想定外だったといってしまうことのないように、様々な状況(シナリオ)をイメージできるかどうかが重要であるということなのでしょう。

次に、ディシジョンツリー分析と一緒に用いられることの多いリアルオプションです。いずれも不確実性への対応策として考えられるようになりました。
ディシジョンツリー分析は、時間軸上に意思決定等の選択肢(ディシジョンツリー)を置き、期待値(確率)に基づいて考えていくものです。
また、リアルオプションは、金利や為替などを原資産にする金融オプションに対する言葉で、実物資産(Real Option)を原資産にして金融オプションの考え方を用いて計算していくものです。例えば、投資の継続、延期、撤退などについて、それぞれに対応する金融オプションの考え方を使って(すなわち金融オプションの公式を用いて)計算していきます。
リアルオプションを考えるにあたっては、前提条件次第で結果が変わってくるような細かい計算に拘泥するよりも、どこにリアルオプションが存在するのかについてイメージできるかどうかが重要だといわれています。

 ともあれ、将来キャッシュフローの予測に際しては、以上の例のような工夫が講じられているところです。しかし、同時に、近年流行しつつあるビジネスモデル論では、企業の競争上の優位性は、ライバル企業にまねされる恐れもあり、長期間にわたって維持することはできないことから、5年に1度はビジネスモデルを変更したほうがよいと指摘されています。

 ビジネスモデルを変更すれば将来キャッシュフローももちろん大きく変わります。なので、将来キャッシュフローの予測には、これからも悩みは尽きないと予想されるのです。