戦略マネジメントと管理会計

 経営戦略は、盲人にとっての象のようなものといわれます。

 即ち、盲人が象をさわって表現すれば、大きくがっしりしたわき腹を触った盲人は「象とは壁のようなもの」といい、牙に触れた盲人は「象とは槍のようなもの」といい、くねくね動く鼻を触った盲人は「象とは蛇のようなもの」といい、膝のあたりを触った盲人は「象とは木のようなもの」といい、耳を触った盲人は「象とはうちわのようなもの」といい、尻尾を触った盲人は「象とは縄のようなもの」というからです。
 そして、喧々諤々(けんけんがくがく)の議論をすれども結果はでないのが経営戦略だといわれます。

 とはいうものの、これでは説明を放棄したといわれかねないので、ここでは経営戦略論を5つの流派で説明します。
 まず、経営戦略は計画であると考える戦略計画学派です。1960年代に流行しました。計画を中心に考えることから、人々の相互作用への考慮が弱いといった批判があります。
 次に、戦略は事後的に創発するものという創発戦略学派です。1970年代に流行しました。これには、具体的な示唆が弱い、皆の意見が合意できないといった批判があります。
 更に、戦略とは特定の立地をとるとするポジショニングビューです。1980年代に流行しました。これには、企業間の相互作用という視点が弱い、環境要因に影響されすぎといった批判があります。
 そして、容易に模倣されない経営資源を見定め、自社の競争力の源泉としていくリソースベーストビューです。1990年代に流行しました。これには、市場側・需要側の分析(顧客側の分析)が弱いといった批判があります。
 最後に、戦略の本質を競争相手や取引先との駆け引きとするゲーム論的アプローチです。2000年代に流行しました。(経営戦略論は、最近では更にビジネスモデル論に発展しているように思われますが、これについては後述します。)

 管理会計論でいう戦略マップは、戦略計画学派を基本としつつも、上記の他4つの流派の全ての要素を含むものとされています。

 具体的にいえば、BSC(Balanced Scorecard:バランストスコアカード)から生まれた戦略マップは、BSCの4つの視点である学習と成長の視点、内部ビジネスプロセスの視点、顧客の視点、財務の視点から戦略目標を設定し、戦略目標間を因果関係仮説で結び、矢印(→)で表記するものです。
 そこでは、リソースベーストビューの要素は学習と成長の視点に含まれ、ポジションニングビューとリソースベーストビューの要素は内部ビジネスプロセスの視点に、ポジショニングビューの要素は顧客の視点に、創発戦略学派とゲーム論アプローチの要素は因果関係仮説に含まれるとされています。
 そして、この戦略マップにより、管理会計論の範囲が経営戦略論に拡がってきたのです。

 なお、戦略マップの矢印(→)は厳密な立証を伴わない因果関係仮説でよいとされており、その代わり、仮説の検証が大事だとされています。この矢印(→)を活用した議論には、なにより理解しやすいという特徴があり、この結果、戦略の構築・実施・修正等が容易になるというメリットがあるとされています。