ニューパブリックガバナンスと会計
今回は、ニューパブリックガバナンス(NPG)と会計との関係について述べ、これが前述のネットワーク型の組織の議論と重なり合うことに言及します。
行政においては1990年代の半ば頃からガバナンスが世界的に注目されるようになり、2000年代に入ると更に大きな動きとなりました。この動きはNPGともいわれるようになりました。
このNPGの特徴について、前回述べたNPM(ニューパブリックマネジメント)と比較しつつまとめてみます。
まず市民については、NPMでは行政サービスの顧客や消費者と位置付けられていたのに対し、NPGでは行政サービスの協働生産者と位置付けられています。また、法的には、NPMでは規制緩和等による経済性の改善が優先されていたのに対し、NPGでは市民の主体的な行動や方向付け(オリエンテーション)の強化が優先されています。更に、行政組織が優先する業務として、NPMでは競争的な市場を作り、その市場を活用することにあるとされていたのに対し、NPGではネットワークを基礎とした協働であるとされています。そして、NPMではアウトプットに焦点が当てられていたのに対し、NPGでは組織間のプロセスや(アウトプットを通じて実現していく目標である)アウトカムに焦点が当てられています。最後に、NPMでは効率性と財務成果が重要視されていたのに対し、NPGでは有効性(効果性)と市民や顧客の満足が重要視されると整理されています。
このNPGを会計との関係でみていきます。
上記のように、NPGは市民との関係強化やネットワークを基礎とした協働などに特徴があり、これはちょうど、企業経営のステークホルダーモデルにおけるステークホルダーエンゲージメントの強化と似たような関係にあると考えられます。そして、NPGにおいても、組織間のプロセスやアウトカムに着目されることにより、また、有効性(効果性)や市民満足度が注目されることにより、プロセスそのものやアウトカムに至るロジックへの関心が高まることになります。
これらの動きは会計に影響を与えます。そこでは、行政の活動を説明し市民を巻き込んでいく手段として、また、アウトカムに至るプロセスやロジックを示す手段として、管理会計が重視されるようになります。
また、これらに加えて、組織間のプロセスを構築していく手段としての組織間管理会計なども着目されるようになります。国と自治体などの異なる組織間の協力関係をレベルアップしていくことなどは多くの方がその必要性を感じておられるでしょう。
これらの点に関しては、少し先走りますが、例えばロジックモデルや戦略マップを想像してみてください。組織内であれ、組織外であれ、連携に際しては、自分たちが何をしていくのか、関係者間での明確な共通理解を構築していくことは重要です。これらを通じて、抽象的に協力関係をうたい上げるのとは異なり、関係者間の協働が具体的なレベルで簡単に行われるようになることは容易に想像ができることかと思います。
以上から、NPGはネットワーク型の組織構造と重なり合うといえるでしょう。そして、NPGではネットワークや協働が強調されるからこそ、管理会計もまた重要視されることになるのです。