M&Aと会計

 M&Aはシェアホルダーモデルと密接な関係にあり、その現れのひとつといっても過言ではありません。そこで、ここではM&Aの大きな動きについて確認します。

 1960年代から70年代にかけての米国では、企業における事業の多角化が進展しました。しかし、事業の多角化はうまくいかないことも多く、企業価値を毀損するコングロマリットディスカウントという現象が生じているのではないかと考えられるようになりました。その結果、上手に経営できない事業を切り出す観点から、1980年代には企業の合併・買収(M&A)が盛んに行われるようになりました。
 わが国では、1970年代から80年代にかけて企業の事業多角化が進展しました。1990年代に入るとわが国でもコングロマリットディスカウントが認識されるようになり、1990年代からはM&Aが盛んに行われるようになりました。

 M&Aでは価格算定の必要からValuation(企業価値評価)が求められることから、資本を調達する費用である資本コストとそこから生み出される利益とが重視されるようになり、資本コストを用いて現在価値に割り引くなどのコーポレートファイナンスの議論が大いに発展しました。このファイナンスの議論は会計と関係する部分が多く、とりわけ財務諸表の数字をたくさん使うことから財務会計と関係が深いといえます。

 わが国でも2014年には資本に占める利益の比率である自己資本利益率(ROE)の目標を8%とする方針が経済産業省から出されました。これを契機として、近年のわが国でも、企業経営においては、資本コスト(加重平均資本コスト(WACC)等で測られます)を上回る利益率(投下資本利益率(ROIC)等で測られます)をいかに確保するかといった観点で考えることが、資本コスト経営などという言葉とともに一般化しつつあります。

 M&Aを契機に広まった資本コストと利益率で考える企業経営は、前述の市場型の組織構造とオーバーラップするといってもよいでしょう。そして、コーポレートファイナンスとともに財務会計が重要視されることになりました。