社会を構築する会計
前回は少し脱線しつつ、会計には社会的合意達成のための手段という重要な側面があることについて述べました。今回はさらに脱線してみます。
会計には、社会を構築する会計という見方があります。
その考え方に従えば、会計は単に経済活動における事実を記録し報告する中立的な装置ではありません。会計は、今日の社会における多様な活動やプロセスを管理し組織化する方法、他者や自身を統治する方法などに影響を及ぼす一連の社会的な実践であると位置づけられます。
その上で、以下の3つが相互補完的に機能すると考えます。
第1に、会計はテクノロジーであり、会計は事象やプロセスを可視化し変換する助けとなるものと考えます。会計によって論争を乗り越え、政治的利害を取り除くことができるとされています。例えば、投資の意思決定にあたって経済性計算を行うことによって、論争などを避けることが期待されますが、これなどがそれに当てはまるでしょう。
第2に、会計は、複雑な言語や意味に焦点を当てると考えます。能率や無駄、意思決定、責任、競争などの概念は、会計と相互に密接に絡み合うものです。例えば、標準化や付加価値活動・非付加価値活動などの考え方を通じて、能率や無駄の概念を認識することが期待されますが、これなどがそれに当てはまるでしょう。
第3に、会計における計算実務が変化することにより、議論が巻き起こされ、決着し、新たな経済的領域が構築ないしは再構築されると考えます。例えば、近年のわが国において、資本コストの考え方が一般化したことにより、企業経営の考え方が「投下資本利益率(ROIC)>資本コスト(WACC)」に変わりつつありますが、これなどがそれに当てはまるでしょう。
このように、現実社会での会計実践を含め、巨視的な観点から会計を考えれば、会計には社会を構築する役割があるといえるでしょう。だからこそ、行政においても、以上のような文脈における会計の役割に注目していく必要があると考えています。