合意形成のための会計

 会計の役割について、ここでは少し脱線しつつ考えてみることにしたいと思います。

 会計と聞いたときに多くの方が持つイメージは、損益計算書、貸借対照表に代表される会計メカニズムにあることは間違いないでしょう。そして、同時に、簿記のイメージをも思い浮かべる方も多いでしょう。会計システムを理解する途上には、この簿記というとんでもなくすごいハードルが存在しています。簿記では仕分けが非常に重要となりますが、悩ましいことに、この仕分け、とりわけその訓練には、自身がまるで機械を構成する部品となったかような人間疎外のイメージを抱きかせかねないという深刻な問題があります。会計初学者に対して簿記を強調すればするほど、優秀な若者をして会計嫌いに誘導しかねないと危惧される方も多いのではないでしょうか。そして、その反射的利益を得ているのは、たぶんに経済学や経営学になるのでしょう。ともあれ、以上が平均的な会計のイメージではないでしょうか。

 しかし、会計には社会的な合意形成のための手段という重要な側面もあります

 例えば、19世紀末から20世紀初頭にかけての英国では、労使間の対立を解決するため、労働者と資本家との利害調整の手段として、原価計算が重要な手段として認識されていました。直截にいえば、原価の範囲内に入れば労働者の取り分、原価の外になれば資本家の取り分となるわけです。原価計算は非常に技術的な方法ですが、それにもかかわらず、このように、利害調整のための重要な手段として認識されていました。

 これを行政で考えれば、行政組織の提供する公的サービスは必ず原価を伴います。この原価は社会の中で資源を配分し続けなければなりません。そうであるからこそ、どのようなプロセスで生産され、算出された原価であれば納税者の納得を得ることができるかという視点が重要となってきます。のんべんだらりと仕事をして、そのツケ(原価)を納税者に回すでは、納税者は納得しないでしょう。だからこそ、どのようなプロセスで生産されたかも含めて重要になると考えます。

「借り方」「貸し方」だけが会計ではありません。上記のように、会計には社会的な合意形成のための手段という重要な側面があるのです。