ステークホルダーモデル

 今回は、最近の企業経営に関連する動きがネットワーク型の組織構造と重なり合うことについて述べます。

 2000年代に入ると、それまで有力であったシェアホルダー(株主)中心の考え方から、シェアホルダー以外の全てのステークホルダー(利害関係者)について、それらとの対話がステークホルダーエンゲージメントとして重視されるようになってきました。ステークホルダーは単なる管理のための対象ではなく、対話によってステークホルダーのニーズを把握するとともに、企業の活動について理解してもらう対象となったのです
 また、環境等の持続可能性といった議論を受けてSDGsやESG投資が注目を浴びるようになりました。これに伴い、ステークホルダーエンゲージメントの内容も充実されつつあります。更に、企業が長期にわたりどのように価値創造に取り組むのかを示した統合報告書も盛んに出されるようになりました。そこでは、投資家が投資先を評価するために、財務指標に加えて非財務指標も重要であるとされています。
 これらの動きは会計にも影響しつつあります。企業戦略や企業の価値創造プロセス、企業活動などについて、非財務情報を含めて示していくためには、財務会計の情報だけでなく、管理会計の情報も重要であると考えられています。

 更に最近では、デジタル化などのDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、限界費用が大幅に低下したことから新しいビジネスモデルが数多く生まれてきています。そこでは、従来の自社中心のクローズドなイノベーションから、他社を幅広く巻き込むオープンイノベーション、GoogleのAndroidやAppleのiOSなどの技術等を中心としたプラットフォーム、Amazonや楽天などの取引の場としてのプラットフォームといったプラットフォームビジネスなど、企業間の協力関係をいかに活用するかが注目されています。これらの動きは会計にも影響を与え、組織間管理会計などの議論が注目されるにいたっています。

 2000年代以降の以上のような動きは、ネットワーク型の組織構造とオーバーラップしているということができるでしょう。そして、これは会計にも影響を与え、財務会計とともに管理会計もまた重要視されるようになってきているのです。

 なお、この3回にわたって企業経営について述べてきましたが、ここでいうシェアホルダーモデルからステークホルダーモデルへの動きについては、現在ではコーポレートガバナンスとして議論されている内容と重なります。ただ、コーポレートガバナンスは国により論者によりその内容が異なります。例えば、わが国では資本コスト経営なども含まれますが、米国ではそこまでの拡がりはないようです。