管理会計は管理か会計か

 管理会計(Management Accounting)を考えるにあたり、論者により理解が異なり、どう考えていいのか悩ましいのが、管理会計は管理(Management)か会計(Accounting)のいずれを重視するかということです。管理を中心と考えた場合には、マネジメントに役立つものはどんどんと取り入れるべきという、非常に雑食性の強い考え方になります。一方、会計を中心に考えた場合には、P/LやB/S等の会計メカニズムの中で考えるという傾向が見られます。

 ここでは、これを行政実務家の立場から考えてみます。行政実務においては、会計の範囲内でものごとが完結することはあまりありません。収益(売上)や利益がそもそも財務指標で把握できないからです。このため、財務指標に加えて非財務指標が重要となります。
 また、行政組織においても組織の基本的な方針である戦略と現場の業務とがバラバラであっては困ります。両者が有機的に結びつくことが必要です。しかし、組織戦略、現場業務はいずれも財務指標だけでは表現できない、非財務指標が重要となる世界です。
 さらに、マネジメントに役立つ方法論は、往々にして会計以外の世界で生まれます。なぜなら、社会的な必要があるからこそ特定の方法論が編み出されるわけですが、そこでは会計の範囲内か範囲外かは問題とはならないからです。

 それでは、次に、これを管理会計の歴史から紐解いてみます。そもそも管理会計は、科学的管理法を喧伝する能率技師(のちの生産エンジニアです)と会計士の相克の中で、1920年代の米国で誕生しました。また、1980年代後半には、米国の管理会計は実務との適合性を模索し、管理会計手法の開発に大転換したのですが、これを主導したキャプランは「新たな管理会計システムを設計するとき、エンジニアや現場管理者の意欲的な関わり合いは必須なのである」と述べています(ジョンソン=キャプラン『レレバンス・ロスト』1987。邦訳は1992)。歴史を振り返っても、管理会計は会計の世界で閉じられたものではないといえるのです。

 以上から、管理人としては、管理会計においては管理(Management)を重視することが望ましいと考えます。